「旅するサイクリスト」では、その名の通り、自転車で旅をする人をご紹介。「旅」とひとことで言っても、近場の散策から世界一周の旅まで、楽しみ方は人それぞれ。いろんな旅のお話をお聞きしたいと思います!
今回お話を伺ったのは、すずきゆーすけさん。
つい先日、ロードバイクでユーラシア大陸、アメリカを横断し、1万4000km完走という偉業を成し遂げられた超人です!
ちょうど帰国したてのタイミングでお会いできたので、取材させていただきました。
実際に走っていた時の服と自転車で撮影させていただきました。大陸横断中は、あえてスポーツウェアではなく、大好きなアニメのTシャツと履き慣れたバスパンなど、ラフな格好で走っていたそうです。
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自転車を始めたきっかけ
もともと自転車が特別好きなわけではなかったというゆーすけさん。自転車でユーラシア大陸横断にチャレンジしたのは、「突拍子もないことをやってみたい」という衝動だったようです。
学生の頃からヒッチハイクで旅をするなど、アブノーマルなことが好きだったそうで、大学時代にユーラシア大陸横断のブログ記事を見てから、就活に失敗したら、ユーラシア大陸を横断しようと考えていたようです。結局就活には成功し、無事社会人になりましたが、その後も旅への思いはなくならず、社会人として5年働いたときに、ユーラシア大陸横断を決意。
まずはロードバイクを購入し、四国1周をするなど、準備を始めたとのこと。
ユーラシア大陸横断
2023年1月、ポルトガル・リスボンを起点に中国・上海を目指して出発。おおよそ1万4000km、荷物は30kg近くを常に背負いながらと、想像しただけでもかなり過酷な旅です。さらに野宿をすることも多く、4日間もお風呂に入れないこともあったとか。
超長距離ライドなので常にお尻は痛く、とはいえすることもなく暇なので、毎日朝から夕暮れまでひたすら漕いでいたとのこと。その結果、毎日100km超の距離を自転車を漕ぐことになり、予定よりも早く進んだそうです。
自転車を盗まれた話
やっぱりトラブルは付き物だったようで、ブルガリアの首都・ソフィアでは、なんと自転車を盗まれてしまったのだそう。
それはホステルに泊まった夜のこと。通常自転車を室内に置かせてくれる宿が多いそうですが、そのホステルでは自転車の室内持ち込みが禁止だったため、仕方なくホステル前の街灯の柱にチェーンロックを二重で結びつけて施錠することに。
すると夕食後、バルコニーから自転車を結びつけたはずの柱を見ると、自転車がなくなっていたんだそうです。
気持ちとしては、「これからの旅をどうしよう」よりも、愛車を失ったことの悲しみの方が大きかったと言います。
実は自転車には、好きな声優さんの名前からとった「さゆり号」という愛称をつけていて、一緒に旅をしていくうちに愛着がかなり湧いていたそうです。モノに対してこんなに愛着を持つとは思っていなかったというゆーすけさん、それまでの旅の記憶を思い返しながら「ユーラシア大陸を横断させられなくて、ごめんね」という気持ちになったと振り返ります。
今後の旅の心配より、自転車に対する愛情が勝っていたとは、自転車好きなら分かるような気がしますね。
盗難については警察などに相談したそうですが、結局見つからず、次の街のトルコ・イスタンブールで自転車を新調されました。
百聞は一見にしかず
旅を通して学んだことをお聞きすると、「百聞は一見にしかず」とはっきりと答えてくださいました。
なんとなくのイメージでは、自転車大国のヨーロッパは走りやすい道が多いと思われるかもしれません。けれど実際に走ってみると、チェコ、オーストリアはアップダウンが多かったり、スペインは高速道路の罠にハマったり、セルビアの道中は異様な匂いを放つ動物の死骸がいたり…
一方、意外にもカンボジアが、道路の舗装がしっかりしていてとても走りやすかったのだそう。
それ以外にも、親日のイメージがあるトルコは、出身国に関係なくそもそもみんな優しくて、自転車横断中、雨が降るとタオルをくれたり、ガソリンスタンドに寄ったら、お茶を無限に飲ませてくれたり…ISのイメージもあって、イスラム教には怖さを感じていたそうですが(トルコの宗教の多数はイスラム教)、全くそんなことはなく、イメージは一変したと言います。
ゆーすけさんは、「自分で体験することの大事さを感じました」としみじみと語ってくださいました。
中国横断断念、ベトナム→アメリカに
本来の予定では中国・上海をゴールにする予定でしたが、中国ビザの取得に1ヶ月以上かかるということで、時間がもったいない!と、新たな体験を求め、中国の横断を諦め、アメリカ横断に切り替えられました。ユーラシア大陸横断が不本意な形で終わるも、そのエネルギーを次の目標にぶつけるマインドが素晴らしいです!
アメリカ横断
アメリカはロサンゼルスから出発し、ゴールをニューヨークに設定。5600kmの道のりです。
夏のアメリカは、暑さに乾燥に、なかなか過酷な環境。
自転車トラブルが多かったアメリカ
アメリカの道路は舗装状況が良くなく、何度もパンクに見舞われのだとか。特に途中、チューブの品質が悪く、パンクを直せずに、前輪がパンクしたまま130kmを漕いだそう。130kmパンクしたままはさすがにヤバい、絶句です…
またGoogle Mapで示される道も、アスファルトの道路ではなく砂利道も多かったらしく、ときには30km引き返す羽目になることも。やはり車社会のアメリカ。自転車にはなかなか厳しい環境のようです。
アメリカでも人は温かい、でも、物価は高い
自転車で横断していると、現地の人が水をくれたり、中には60ドルをくれた人もいたとのことで、人の温かさを感じ、かつ、応援されているという実感も得ることができたそうです。
またアメリカ人のサイクリストへのリスペクトはすごいらしく、「毎日何かをもらっているような感じ」だったとのこと。
やはり、難しいのは昨今のインフレと円安の影響で、信じられいくらいの物価高。それでもファストフード大国アメリカ、マクドナルドやタコベルなど、物価高でも1,000円を切る食事にありつけたようで、さらにドリンクが飲み放題なので、糖質はそこで大量に補充していましたとのことです。
宿泊は野宿+カウチサーフィン
220日の滞在のうち、84回は野宿。
それ以外が、ホステルに泊まったり、カウチサーフィン(後述)を利用したりして、お金をセーブしていたとのこと。
野宿
野宿はお金をセーブできるものの、やはり過酷。
寒さは寝袋で凌げるものの、暑さは凌げません。ただ、そんな環境下でも、サイクリングの疲労でなんとか眠れたんだとか。
けれど、テントに虫が入ってきたり、チェコではテントに笑いながらおしっこをかけられたりと、お話を聞く限り、本当に大変そうでした。
カウチサーフィン
野宿以外で活用したのは、カウチサーフィン。
無料でホームステイ先を探すことのできるアプリで、アメリカ、ヨーロッパでは広く普及しています。
日本でもサービス展開されているものの、そこまで普及していないのが現状のようです。
このカウチサーフィンを活用して、多くの人との出会いがあったとのこと。
ニューヨークで泊まったお家のホストは、ヌーディストの方だったそうで、全裸の方と過ごすなんてこともあったそうです(笑)。日本ではなかなか考えられない状況ですよね。
※ゆーすけさんはしっかり服を着ていたとのことです!
お話を聞いていると、しっかりとサービスのあるホテルなどに滞在するより、カウチサーフィンを利用する方が、現地の方と触れ合ったり、リアルな街の治安を感じたり、本当の海外を感じることができたようです。私も今度活用してみたいと思いました!
横断を通じて
トータル1万4000kmの道を220日で完走したゆーすけさん。毎日70km弱を走っていたことになります。
やはり、お尻は毎日痛かったそうです。
自転車に対する気持ち
最初は自転車がきっかけで始めた横断ではなかったたとおっしゃっていたゆーすけさんですが、旅を通して、自転車のおもしろさに気付いたそうです。人力で走る乗り物として、極限まで効率化されたすごい乗り物だと実感したと言います。
ゆーすけさんは220日で完走されましたが、もっとゆっくりのペースなら誰でもできる。それは、人の力を最大限活かして進むことができる自転車の力だと話されていました。
とはいえ、脚とお尻と背中を痛めながらも、大きな負傷や心が折れることもなく、140,000km、最後まで走りきったのは本当に感服です。
自転車はボロボロになったようですが、インタビューに答えてくださったゆーすけさんは、なんだか飄々とされていていたのが印象的でした。心も身体も本当にタフなんだろうなあと感じます。
自転車仲間
カザフスタンでは、ユーラシア大陸横断中のフランス人3人組に知り合ったそうです。ゆーすけさんは彼らと別れたあと、Instagramで旅の様子を見ていて、中国ビザをなんとか獲得し、横断を成功させたとも、投稿から知ったとのこと。
ストーリーなら足跡が残るので、お互い見ているんだな、繋がっているんだなという気持ちになり、励みになったそうです。
それだけでなく、SNSを通じて、いろんな応援の言葉をもらい、とても励みになったと言います。繋がっていることの大切さを知りましたと話されていました。
今回の旅を通じて伝えたいこと
魅力のない国や場所などないと感じると同時に、行ってみないと分からないし語れないことに気付いたと、教えてくださいました。
そして、自分がやりたい!と思ったことは、いくつになってもやらないといと、改めて感じたとのことでした。
「脱サラして、普通の人生からはみ出したような気もするけれど、全然良かったかなと思ってます!」と笑顔でおっしゃっていたのが印象的です。
若いうちに挑戦するに越したことはないかもしれませんが、実は年齢はそれほど気にすることなく、思いがあるのであれば、挑戦するべき。
チャレンジすることの清々しさを、見せつけていただきました。
今後について
実はゆーすけさん、以前東京マラソンに挑戦し、3時間45分で完走。次は3時間半切りを目指してもう一度フルマラソンに挑戦したいと考えているそうです。けれど、しばらく休憩(笑)。自転車もボロボロなので、とのこと。自転車で何かをするかどうかも、こだわっていないそうです。
そしてそれ以外は、これから考えていくとのことでした。
インタビューを通して
話を聞けば聞くほど、おもしろいネタが出てきて、毎日のように何かが起きるような、目まぐるしい旅だったんだろうなと感じました。
人との出会いや、さまざまなトラブル、多くのエピソードをお聞きできました。
辛かったことも、すべて楽しそうに語っていただけるので、聞いている私もワクワクしました。そして今後の活動がとっても気になります!
すずきゆーすけ
Twitter
@yusukeateabby
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